双子の放火犯

2014.09.02.Tue.07:35
イギリス西部ウェールズの一角に位置する街にその一家は住んでいた。街唯一の黒人一家であった。

父親は英国空軍管制官であり、母親は専業主婦。3人の子供がいた。
そして1963年4月11日、女の子の一卵性双生児が新たに誕生した。その双子はジューンとジェニファーと名づけられた。

父親は家庭のことは一切合切、妻に任せきりだった。
妻はそれを受けてもともと家庭的な女ではあったが、夫が家族をかえりみないことには不満だった。そしてこの地区唯一の黒人一家として周りはよそよそしい態度をとっていた。

双子は健康に育ち、順調に立って歩きはじめたが、言葉の発達は遅かった。またお互いと離れるのをいやがり、無理に引き離すと泣きわめいた。
二人はこちらの言葉は理解しているし、読み書きも充分にできるのだが、積極的に喋らなかった。 「恥ずかしがり屋さん」ということで大人たちはこれを片づけてしまった。

― 殻に閉じこもる少女 ―
二人は学校でもうまくなじめなかった。
一言もしゃべれない上に人種間の壁があったので、クラスメイトのいじめの対象となった。いじめられると彼女たちは向かいあってお互いの肩を抱き、ボールのように丸くなって周囲の攻撃から身を守った。
それはまさに彼女たちの「殻」そのものに見えた。双子は外界との「殻」に閉じこもっていたのかもしれない。

二人はいつでも同じタイミングで同じ動作をした。瞳は沈みがちで、腰をかがめてノロノロ格好で行進するかのごとく歩いた。それは誰の目にも奇妙な双子に映ったのかもしれない。
しかしそれには理由があった。

二人は殻に閉じこもり、愛しあっていた。しかし愛は次第に憎しみに変わっていたのかもしれない。同じ動きは、お互いがお互いを監視し合っているせいだったのだ。しかしそれはまだ誰にもわかってはいなかった。家族ですら。

― 憎しみでの繋がり ―
二人は迫害されてきた社会でとことん二人っきりになっていた。それは二人の瞳にはお互いしか見えていないことを意味していた。
知能は高かったが、IQテスト結果はさんざんだった。二人は理解力は優れていたが表現力がなく、興味のない科目には見向きもしなかった。

彼女らは精神科医や面接官はもちろん、兄弟や両親にもほとんど口をきかず、隠れてお互いにだけ通じる特異な言語でしゃべった。二人の会話を録音したテープはまるで聞き取れず、人間がしゃべっているというより小鳥のさえずりのように聴こえたという。

やがて成長するにつれ2人は「女としての魅力」を張り合うようになった。これが地獄の始まりだったのかもしれない。

18歳のとき、彼女らは14歳のアメリカ系白人の少年に熱をあげ、大人の女にしてもらった。
少年は二人にアルコールとシンナー吸引を教え、性交をしながら暴力をふるった。双子はそれでも「なんとか相手よりも多く歓心をかわねば」という一心で彼にまとわりついた。だが少年は2人を屈辱し、暴力の限りを振るい、また性の玩具として扱った。
双子はウオッカやブランデーを飲み、シンナーを吸って幼い頃からの奇妙な歩き方でうろついた。よその家のチャイムを押して逃げたり、男性に「愛の脅迫文」を送りつけることもしばしばだった。しかし双子はこれが自分たちの仕業だとはばれていないと思いこんでいた。
二人は男と酒、シンナーに溺れ、次第に放火など犯罪に手を染めるようになる。しかしこれには双子の心理が関係していた。

実は双子は「恋人の少年に無下にされると、火をつけたくなる」という意識があったのだ。
放火事件は繰りかえされた。あるトラクター会社は双子の放火により、10万ポンドもの損害をこうむった。

やがて双子は現行犯逮捕されることになる。
双子は「サイコパス」と診断され、精神病囚人専用のブロードムア収容所に送られた。そこで2人は交互に過食と断食をし、同室にすれば激しく喧嘩し、引き離せば「自分の見ていないところで、あの子だけがいい目をみているのではないか」と疑心暗鬼になり憔悴した。

双子はあいかわらず沈黙し、二人だけの世界にいる。愛と憎しみしかない殻に閉じこもっていた。彼女らは反社会行動をとることでしか現実の社会とは触れあえなかった。もう殻から出ることは永遠にないのかもしれない。



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